のすたる爺や

日々の出来事ちょっとしたエッセイ。

牡丹灯篭

のすたる爺や

 日本の有名な怪談話に牡丹灯篭という話があります。登場人物の名前など諸説ありますが、代表的な話は萩原新三郎という浪人者が顔見知りの医者の宅に伺ったところ、治療に来ていた武家のご令嬢お露と女中のおヨネに出会います。

 新三郎もお露もお互い一目ぼれし、この人以外に伴侶となるものはいない!と心に誓っては見るものの、かたや武家のご令嬢、かたやしがない浪人もので身分の違いはいかんともできません。

 ある夜、新三郎が家にいると下駄の音が聞こえる。こんな時間に誰が歩いているのだ?と気になって外に出てみると、牡丹の絵柄の美しい提灯ぶら下げてお露とおヨネが歩いて来る。「これはこれは、こんな夜更けに何用ですか?」「新三郎さまに会いとうて」と、それから毎晩お露が訪ねてくる。

 近所の者も、毎晩何しているんだ?と気になり、好奇心半分にのぞいてみると、新三郎が楽しそうに話し掛けている相手はなんと骸骨。新三郎に思いを寄せながらもお露は病を得て死に、それを追うようにおヨネも死んでもはやこの世のものではありません。

 毎夜死人と情を交わしていた新三郎も日に日にやつれていく。これはいかんと周囲のものがお坊様に頼んで新三郎を助けようとします。新三郎の家の入り口にお札を貼って、お露が入れないようにしてしまいます。

 「新三郎さま、お札を、お札をはがしてくださいませ」とお露が懇願します。新三郎もあの世に連れて行かれてなるものかと拒むのですが、ついにこらえきれずにお札をはがしてしまいます。

 しらじら夜明けも近い頃、おヨネの照らす牡丹灯篭の後にお露と新三郎がついていきます。後にお露の墓をあばいてみると、棺の中にはお露の骸骨を抱いた新三郎が入っていた。

 怪談・牡丹灯篭は落語家の三遊亭円朝の噺で広く庶民の間に知られるようになりました。落語の牡丹灯篭の元になったのは19世紀になって書かれた鶴屋南北の「阿国御前化粧鏡」。山東京伝の「安積沼」があります。

 牡丹は中国の代表的な花ですが、実はこの牡丹燈篭という物語は明の時代に書かれた剪燈新話という本に出てくる物語です。

 上田秋成の雨月物語にも剪燈新話から引用された物語がいくつもあります。牡丹燈篭をモチーフにしたと思われる「吉備津の釜」や剪燈新話の愛卿伝をモチーフにした「浅根が宿」などが引用されています。

 さて、本家牡丹灯篭とはいかに? 時代は元の末期、今の浙江省あたりに喬生という男が住んでおりました。毎年五月十五日には燈篭祭りが開かれ賑わいを見せるのですが、喬生は妻に先立たれ、燈篭祭りを見に行く気にもならずぼんやりと門前にたたずんでいました。

 夜も12時を回った頃、牡丹の花が二つ並んだ燈篭を持った女中を先頭に年の頃なら17-8の世にも美しい娘が歩いてきます。喬生はあまりの美しさにふらふらと近づいてしまうと「逢引のお約束をしたわけではございませんのに、こんな月の夜にお目にかかれるのも何かの縁でしょうか」と美女麗卿に声をかけられます。

 「私の家はこの近くなので、お寄りいただけませんか」と喬生が誘うと麗卿と女中の金蓮は拒むことなくついてきました。ここから先は日本版と同様で、毎夜毎夜二人が訪ねてくるので、隣のものがのぞいてみたら喬生がドクロと話をしている。

 人間は陽の世界に住む精気のあふれたものだが幽霊は陰の世界に住む穢れたものなのだ。それに気がつかず毎晩毎晩幽霊と同衾しているが、このままだと若いみそらであの世に連れて行かれるぞ、と、老人に脅かされた喬生は、麗卿が住むという湖の西に行って見ますが、誰も麗卿のことなど知りません。

 一休みしようと立ち寄った湖心寺で「元奉化州、州判のむすめ麗卿の棺」というのを見つけびっくりします。よく周囲を見ればその前には牡丹の花を二つ並べたおなじみの燈篭があり、その下には死者に供えた紙人形があり、その背中には金蓮と書かれています。

 これは大変なことになったと魏法師という男の元に相談に行くと、二枚の護符を渡されて、一枚は門柱に張りもう一枚は寝台に張るよう言われ、決して再び湖心寺に近づいてはいけないと言われます。

 一月ほど経った頃、友人の家で飲んだ喬生は魏法師の言いつけを忘れて湖心寺の前を通ってしまいます。門前には女中の金蓮が立っており、「お嬢様がお待ちでございます」と喬生と寺の中へ引っ張り込みます。棺のあった部屋には麗卿が待っていて「お目にかかれた以上もう放しはしません」と麗卿は喬生を棺の中に引きずり込むと棺の蓋がバタンと閉まります。

 喬生が帰ってこないことを心配した老人が西心寺に見に入くと、麗卿の棺から喬生の着物が出ているので、老人が棺を空けると喬生は屍の女を抱いて死んでいました。

 日本ではここでおしまいですが、ここから物語がお下劣に進行するのが人間不信の中国版です。

 その後、夜な夜な金蓮の牡丹灯篭を筆頭に喬生と麗卿が手をつないで歩いている姿が人々に目撃されるようになります。それに行き当たった人は思い病気になってしまい、手厚い法要をしないと死んでしまうとあって、人々は魏法師に助けを求めに行きます。

 わしの護符は未然に防ぐことはできても、既に起きてしまったことには効き目がないので、幽霊を懲らしめる術を身につけた鉄冠道人に相談しろ。と魏法師は言います。

 鉄冠道人は静かな隠居暮らしを妨げられたので怒り心頭です。金連、喬生、麗卿の三人を捕らえると首かせをして鎖でつなぎ鞭打ちをし、三人に供述書を書かせて九幽の獄へ押し込んでしまいます。人々に鉄冠道人のことを教えた魏法師に対しても「あのおしゃべりめ」と怒り、喋れなくしてしまい、道人は人々の前から姿を消してしまいます。